HARIBOW Go BEYOND チケット
HARIBOW の5人と、5人のサイン

Britain's Got Talent 2024 — 5人が話した95分

体育館だと思っていた

史上初の観客ゴールデンブザーを受けた5人が、満席でも赤字になる公演をやろうとしている

2026年9月3日 収録 横浜(+追加取材)
HARIBOW 初の単独公演「Go BEYOND」 2026年9月29日(火)めぐろパーシモンホール 大ホール

プロローグ

ブザーが鳴った瞬間のことを、5人とも覚えていない。

2024年、ブリテンズ・ゴット・タレント。以下BGTと書く。チームHARIBOWが跳んでいる途中で、客席が「ゴールデンブザーを押してくれ」と声を揃えはじめた。審査員はもう全員ゴールデンブザーを押す権利を使い終えていた。そのあとで観客がブザーを押させている。

HARIBOWのパフォーマンスを見た観客たちが「ゴールデンブザーを押してくれ!」と一体となって訴えかけたことでブザーのボタンが押されるという、歴史的偉業ともいえる事態が生まれた。そして今回の「オーディエンス ゴールデンブザー」はBGTの10年以上の歴史で初となる制度。
出典:FINEPLAY/ORICON NEWS(2024年5月27日)

観客が押させたゴールデンブザーは番組10年以上の歴史で初めてだった。5人はそのまま決勝に進んでいる。

日本人がこの番組の決勝に立ったのは2023年のとにかく明る安村氏に続いて2組目。安村氏は準決勝で敗れたあとワイルドカード枠で決勝に進んでいる。決勝進出がいまのところ日本人の最高到達点で、HARIBOWはそこに並んだ。

準決勝で敗れたとにかく明る安村がワイルドカード枠で決勝に出場することが決まった。日本人初となる決勝進出という快挙。
出典:中日スポーツ ほか(2023年6月)

その夜の座談会であの瞬間について僕たちが思い出せたのは、これだけだった。

あと、本当にトイレ行きたかった。

先に言っておく。これは才能の話ではない。子供の頃から同じ仲間と同じ遊びを続けただけだ。違いがあるとすれば、途切れさせなかったこと。

好きなことをやっていたら、思ったより遠くまで連れて行かれた。そういうことが、起きる。

その5人がいま、満席になっても赤字になる公演をやろうとしている。

ぜ赤字を出してまでやるのか。それもこの座談会の後半で一言で聞いている。5人の答えは、そろわなかった。

僕は最高のショーを突き詰めたいだけだ。ほかの4人はそれぞれ別のことを言った。

チケットは、まだ埋まっていない。だから僕たちは友達にひとりずつ連絡を入れている。そこでこういう話が出た。

松澤竜介

近い人ほど、誘うのが慎重になっちゃう。……結構、来てほしいからな。

これはその連絡をしている最中の僕たちが、95分話した記録だ。

いまのHARIBOW
現在の5人。

先に僕たちが何をやっているのかを書いておく。

ダブルダッチは2本の縄を向かい合った2人が回し、その中で跳ぶ。速い場面では縄は1秒に8回まわる。1回あたり125ミリ秒。人が無意識にまばたきをする時間と、ほぼ同じだ。

まばたき1回のあいだに縄が1本、足の下を通り抜けている。

それをメンバーは平均して10年やっている。

回し手が2人、跳び手が1人。この弧の中に、足を入れ続ける。

この記事に出てくるのはその5人だ。

5人のうち4人は部活で始めている。海野鷹幸と加藤周平が長野、松澤竜介が千葉、井端真秀が神奈川。

僕だけが違う。高校の仲間4人に部活をやめさせて近所の公園で始めた。そのときつけたチーム名が pawn だった。チェスでいちばん弱い駒のことだ。盤の端まで行くと別の駒に成る。意味は知っていて、つけた。

いまは海野が株式会社HARIBOWの代表を務め、僕が作品と演出をまとめている。

いわゆるプロのスポーツ選手とは経路が違う。スカウトも、強化指定も、育成組織もない。大学のダブルダッチサークルで同じ世代だった仲間が卒業してもばらけずに、そのまま会社を立てた。

その延長でイギリスのオーディション番組に出た。その延長で世界一になった。

誘ったのは僕と海野で、竜介・真秀・周平は後輩にあたる。

2026年9月3日の夜。横浜に5人が集まった。机の上に質問を書いたカードを伏せた。誰も進行役をやらない。誰かが一枚めくって、読み上げる。自分のカードも、自分で引く。

これを書いているのは、坂田潤弥。上に名前を挙げた5人のうちの一人だ。だからここには書いている人間の言い分も混ざっている。

9月29日、めぐろパーシモンホール大ホールでHARIBOWは初めての単独公演をやる。タイトルは「Go BEYOND」。その26日前の夜だった。

第一章 誰も覚えていない

誰かが一枚めくった。あの瞬間のカードだった。

引いたカード
ゴールデンブザーって、審査員は全員押し終わってたんだよね。観客が押させた。あれ、どの瞬間に気づいた?
海野鷹幸

僕自身、情報弱者すぎて何も知らなかった。なのにウキウキして出てて。ゴールデンブザーって、優勝の演出だと思ってたから、予選で押されるとは思ってなくて。

海野鷹幸

英語わからないながら、ジャッジのコメントを聞いて、その観客の反応で、ゴールデンブザーを押されたんだっていうのを、そこで気づいたかも。

海野鷹幸

押されて、意味が分かんなかった。押された後にいろいろ調べ始めて、えっ、これ実はやばくね、俺らすごくね、みたいな。

押したのは客席にいた2人の子供だった。審査員サイモン・コーウェルの息子エリックと審査員アマンダ・ホールデンの娘ホリー。審査員のブザーは全員が使い切っていて、会場が「押して」の合唱になったとき、サイモンが2人に「君たちが押しなさい」と声をかけている。

観客席にいたこの2人の子どもたちに対し、サイモンが直接指示しました。会場は「ゴールデンブザーを押して!」という大合唱に包まれており、審査員のゴールデンブザーがすべて使い切られていた状況でした。
出典:dryukiネット(2024年)

価値が分かっていなかったので、心配していたことも的外れだった。

坂田潤弥

(俺らには)子供が乱入して勝手に押した、みたいな感じで見えて。英語わかんないから、これ多分、全カットでなくなるんだろうなと思ってた。

消えるどころではなかった。

海野鷹幸

(再生回数を)合わせたら2,500万。あの単発だけでも1,000万ぐらい再生されてんじゃん。

2,500万回。ただしそこに自分が映っているかどうかは、別の話だった。

松澤竜介

俺、映ってなくて悲しいわと思って。動画が上がった後に、全然映ってねえ、ってなった瞬間はありました。

金の紙吹雪が降りはじめた直後。ブザーが鳴ってから何が起きたのかを理解するまでに、まだ時間がある。

座談会の終盤、また同じ話題のカードが出た。今度は記憶のズレを聞くものだった。

引いたカード
BGTでゴールデンブザーが鳴った瞬間。あの記憶、5人でズレてるところある?

ズレている、という答えは出なかった。出てきたのは、そもそも覚えていない、だった。

海野鷹幸

ぶっちゃけ、喜んどくか、?って気持ちで。何が起きてるかさっぱりすぎて。

松澤竜介

俺、あれ(=海外の番組)一発目だから、本当に記憶なくて。

加藤周平

審査員が英語喋ってる時に必死すぎて。とりあえず、わかんないけど喜んどこうと思ってたら、なんかパーンってなって。子供が走ってきたのも正直見えてなくて、急にパーンってなったから。

周平には押される瞬間が見えていなかった。

加藤周平

子どもがブザーを押すところは自分からは見えていなくて、いきなりゴールデンブザーが鳴りました。最初は「え、何?」ってびっくりしていて、周りを見ると潤弥さんあたりが喜んでいたので、「え、マジ?」となって、とりあえず一緒に「イエーイ!」と喜びました。

そのあと確信するまでに時間がかかっている。

加藤周平

スタッフや会場関係者の人たちもちょっと慌てていたし、お客さんも一気に「イエーイ!」という感じではなかったので、「これ大丈夫? 本当にゴールデンブザーなの? 間違えて押したとかじゃない?」と半信半疑でした。

加藤周平

そのあと徐々に「どうやら本当らしい」と分かってきて、最後にサイモンたちがもう一度話すターンで「準決勝で待ってるよ」というようなことを言われたときに、「あ、マジなんだ」と確信に変わりました。

ブザーが鳴った直後に誰と目が合ったか。

加藤周平

正直、はっきりとは覚えていないです。ただ、隣にいたのがうんのさんだったと思うので、多分うんのさんです。

ロンドンにいた10日間でいちばんくだらなかった時間は何かと、あとで竜介に聞いた。返ってきたのは本番の日の朝だった。

松澤竜介

鳥の真似をしながら会場へ向かう、当日の朝。

その数時間後に番組史上初のブザーが鳴る。

当日は何時間も待たされている。楽屋で待ち、昼寝をして、名前を呼ばれて舞台袖まで来た。そこから先、トイレに行くタイミングが分からないまま、幕が開いている。

加藤周平

あと、本当にトイレ行きたかった。めっちゃ待たされたじゃん。本番始まるって言われてから、トイレ行くタイミングが分かんなくて。舞台袖に来た時に行きたかったけど、ここでトイレなんて言い出せなくて。

加藤周平

当日は)昼寝してた。ほぼ練習してないよね。

縄の中で4分跳び、審査員の英語を聞き取れないまま笑い、客席が声を揃えはじめ、ブザーが鳴った。その4分のあいだ、頭にあったのはトイレだった。

ただその夜のことは覚えている。同じ質問を海野にすると、返ってきたのは番組が終わったあとの話だった。

海野鷹幸

近くのレストランに飲みに行ったんだけど、そのときにめちゃくちゃ声をかけられた。写真を撮ってください、って何度も言われて。たぶん、会場で直接見てくれていた人たちだったんだと思う。

海野鷹幸

あなたたちのおかげでゴールデンブザーをもらえたよ、っていう感謝の気持ちもあったけど、単純にチヤホヤされるのが嬉しくて。もう少し外にいてみる、みたいな感じで、声をかけてもらうために無駄に外にいた気がする。

海野鷹幸

くだらないというか、振り返ると、ちょっとかわいいなと思う。

僕たちはあの日、自分たちに何が起きているのか分かっていなかった。価値は、あとから知った。

第二章 大晦日の電話

BGTの話が来る前。

2023年の秋。真秀は大学3年生だった。ダブルダッチ・デライト East。学生の地区予選大会で10月にある決勝大会「ジャパン」のステージを目指す。用意された5枠をかけて戦う。

しかし真秀の現役時代のチーム、Auro-ra はその切符を掴み取ることができなかった。

結果は会場で発表される。選手席に座ったまま、聞いている。最初に思ったのは、やりきった、だった。会場を出るまで、泣いていた。

この Auro-ra で一緒に跳んでいた米田玲音とはそのあと YOUNG BLOOD を組んで世界一になる。9月29日も同じ舞台に立つ。ただ泣いているこの時点では、誰も知らない。

次に縄を触ったのは10日後。やめるつもりはない。3年生で、4年生まで続けるつもりだった。

11月27日にあのグループが作られたのはそのあとだ。

そんな最中の、ある練習の帰り道だった。突然、電話がかかってくる。かけたのは僕だ。

ではなぜこの5人だったのか。

番組から声がかかったのは僕ひとりだった。Instagramに上げた動画が拡散し、それを見たBGTがオファーを出した。だから僕にはどのチームで出るかを選ぶ余地があった。

当時のHARIBOWは大学のダブルダッチサークルの同じ世代が揃った、それだけのチームだった。会社にする気も、長く続ける気もない。一回イベントに出るだけのつもりで集まっていた。

引いたカード
入口がバラバラの5人が、なんで同じチームになったんだっけ?
海野鷹幸

なんで潤弥がHARIBOWで出るんだ、ってなったんだっけ。最初にオファー来た時にさ、チーム選べるじゃん。なんでロアーじゃないの、って。

ロアー=HARIBOWとは別のチーム。潤弥はこちらにも所属していて、2021年にニューヨークのアポロシアターで3位に入っている。番組から声がかかったのは潤弥ひとりだったのでどちらのチームで出るかを選べた。ロアーは2026年の単独公演で完全新作として復活する。
坂田潤弥

(番組側と)ミーティングがあって。HARIBOWのコンテストの映像と、もうひとつの映像。この2つがいい、って言われて。で、ストリート感がほしい、みたいな。

坂田潤弥

自分自身も、ダブルダッチの魅力を一番シンプルな形で見せたいと思っていた。テーマも技も衣装も、シンプルイズベストな感じで。

坂田潤弥

色々考えると、金銭的なものでも情報でも、他の演目には勝てないと思った。だったらテーマを3つに絞って、それ以外は極力削ぐ。その分、その3つにフォーカスする。

金銭的なものでも情報でも、他の演目には勝てないと思った。
潤弥が書いた当時のコンセプト
2023年11月23日、午前2時5分。誘う前に潤弥はこれを書いている。絞った3つがそのまま並んでいる。この時点では番組名を「ゴッドタレント」だと思っている。
坂田潤弥

テーマにしたチームワークとか仲間って、細かい振る舞いまで演技できる自信がなかったから。本当に仲のいい人、好きな人と出ることは決めていた。

誘われた側にはどう見えていたのか。その場でLINEが遡られた。

引いたカード
BGTに誘われたとき、断る選択肢あった?
井端真秀

11月27日。(潤弥たちに)いきなりグループ作られて、今ミーティング入ってほしい、って。要件なしでミーティングに招集されて。

11月27日。要件を告げられないまま作られたグループに入れられ、そのまま通話がはじまる。話は終わらない。駅のホームに立ったまま、電車を1本、また1本と見送っている。

その舞台が消えてからいくらも経っていない。

井端真秀

ワクワクして、ミーティングにのめり込みすぎて。駅のホームでミーティングしてたのに終電逃して、PayPayでお金送ってもらう、という。

気づいたときには終電が出ていた。帰るお金がなくて、送ってもらっている。

この通話で僕が伝えたのは、ゴットタレントに出演できるかもしれない、ということだけだった。

グループに追加されたのは11時59分。返事をしたのは12時26分。

井端真秀

色々考慮しようと思ったんですが、迷う余地なさすぎました。お願いします。

迷った時間は、27分だった。

次に呼び出されたのは大晦日だった。

井端真秀

大晦日に3人で電話して。大事な話あるんですよね、穴開けちゃうんですけど、みたいなのを、(誘う側の)2人が言った。

松澤竜介

5月の何日も開けといてほしいです、って言われたけど。俺も就職してんだよ、いきなりやろ、渋いなと思ったけど……釣られた。

BGTの予選は2月で、そのときは5人とも大学生だった。開けてくれと頼まれた5月は準決勝と決勝の月にあたる。そして5月には僕と竜介が働きはじめている。入ったばかりの勤め先を、何日も空ける話だった。

松澤竜介

電話終わったら、行くわ、って言った気がする。

断る余地は、一応つくられてはいた。

松澤竜介

俺は結構明確に、出なくてもいいかな、みたいな気持ちがあって。(潤弥たちの)挑戦と、何十万も背負う責任も含めて。……でも、それでも行くわ、って。この勢いが大事だなと思って。

松澤竜介

電話中に、なんか行きたくなった。

就職が決まっていた。何十万も自分で出す。予選で落ちるかもしれない。それでも全員が行った。

そしてその予選がどういうものかを、僕たちは分かっていなかった。誘った僕が、間違えて伝えていた。

坂田潤弥

最初は体育館でオーディションをすると思っていて、それをみんなに伝えていた。そこで勝ち上がったらテレビに出演できると思っていたので、いけると思った。

坂田潤弥

体育館の前で、(番組の)スタッフの前で披露すると思っていた。

井端真秀

体育館で予選をやると思ってたので、いけると思ってた。

松澤竜介

ある程度は通用すると思っていた。でも、本当にゴールデンブザーが取れるとは思ってなかった。

加藤周平

ゴールデンブザーを取れるとは思っていなかったけど、何かしらの形で爪痕を残したり、かますことはできると思っていました。海外の人にはどうしたらウケるかを考えて、デモも作りました。通用するかどうかを強く考えていたというより、自分たちを見せに行く、という感覚の方が強かったです。

海野鷹幸

思ってた。何かしらの結果は出せると思ってた。もともと体育館みたいな場所で演技をすると思っていたし、そこら辺の人たちと比べたら、自分たちはいけるだろうと思ってた。

海野にはもうひとつ根拠があった。数年前に一度、他人から同じことを言われている。

海野鷹幸

アメリカに2週間ホームステイしたとき、ホストファミリーに自分のダブルダッチの紹介をしたら、AGTを見せられて、この番組に出てよ、絶対いけるよ、と言われたことがあって。そのときは無理に決まってるでしょ、と言って、ほとんど相手にしてなかった。

AGT=アメリカズ・ゴット・タレント。BGTと同じ系列のオーディション番組。HARIBOWは2027年にこちらへの出場を目指している。
海野鷹幸

ゴットタレントの話が出たときに、そのことを少し思い出した。海外の人が客観的に見てそう思うなら、しかしたらいけるのかなと思ってた。

僕にとってはそのオーディションに出ること自体が到達点だった。テレビに出るのはその先の話で、まだ手が届く場所にはないと思っていた。

着いた先が本当にただの体育館で、そこで負けて、誰にも知られないまま終わっても、行こうと思っていた。

大きな決断をしてくれたメンバーが後悔するかもしれない。それが、とんでもなく怖かった。

行くと決めてから出発するまでに、これは何も分かっていないな、と思ったことはあったか。3人に聞いた。

井端真秀

なかった。

坂田潤弥

なかった。

松澤竜介

会場、移動手段、練習場所。

加藤周平

ほとんど何も分かっていなかったです。誘ってくれた潤弥さんたちが基本的には理解していると思っていたんですけど、実際は誰も分かっていないことがたくさんありました。

誘われた側は誘った側が分かっていると思っていた。誘った側も、分かっていなかった。

真秀が加わった直後、僕がグループに書いたのはこれだった。

坂田潤弥

パスポートだけみんなで確認し合おう!

井端真秀

パスポート自分も切れてたので、取らないとでした。

番組から届いたメールにも答えられていない。ディレクターは「チームの中に英語が堪能な人はいるか、通話中に通訳してくれる友人がいるか、それとも通訳が必要か」と聞いていた。

坂田潤弥

急ぎで英語喋れる人誘おう。

海野鷹幸

出発する飛行機を取ったのも、めちゃくちゃギリギリだった。俺は海外でバスキングをすることが、死ぬまでにやってみたいことの一つだった。だから、どこでやるかとか、バスキングについては少し考えていた。でも、ゴットタレントについては本当に何も調べてなかった。

海野鷹幸

思えば、使用する曲の申請もまったくしていなかった。海外の番組ではありえないことだし、いろいろな番組に出た振り返ると、あの演技がそのまま放送されたことは奇跡だったと思う。

会場も、移動手段も、練習場所も、パスポートも、英語も、曲の権利も。何ひとつ揃わないまま、僕たちはロンドンへ発っている。

そして舞台に出て、僕はようやく気づいた。体育館ではなかった。

坂田潤弥

そこが会場で、サイモンがいて、本番なのかよ、と思った。

サイモン・コーウェル。BGTの審査員で、番組の顔にあたる人物。

客席が「ゴールデンブザーを押してくれ」と声を揃えはじめるのはその数分後になる。

真秀がグループに追加された日のLINE
12時26分の「お願いします」から。潤弥の次の一言は「パスポートだけみんなで確認し合おう!」。その1分後には番組のディレクターから届いたメールが和訳されて貼られている。

第三章 五人で、五万三千円

渡航費は学生の実費だった。誰かが出してくれるわけではない。だからお金を作るところから始まっている。

箱を作ったのは周平だった。前の晩、ダンボールを切って組み立てている。

松澤竜介

クラファンとか募金もしてたけど。前日にダンボールでせっせと作ってた。

海野鷹幸

目立つし、広告塔みたいなもんじゃん。客寄せパンダみたいな奴らが募金やってる、みたいな。

実際に入れてくれた人がいる。そのお金でロンドンへ行った。

置いたのは、あるダブルダッチイベントの会場。ホワイエの、物販の横だった。

そのイベントは海野自身が運営に入っていて、本人はゲストとして出演もしていた。

海野鷹幸

一番の主役は勝ったチームだけど、誰々が作る作品を見てみたい、と若いディレクターを目的に来てくれる人も多い。そんなメンバーが募金箱を持って立っているのは、イベントの趣旨と反しすぎていないか、少し心配だった。

海野鷹幸

忙しすぎて、こんなことをやっている場合じゃなくない?と思いながら、それでも、マジでお金がないな、と思ってた。

海野鷹幸

当時は自分たちの挑戦をみんなに知らせる手段もほとんどなかった。だから、これをきっかけに、こいつら何か面白い挑戦をするんだな、と知ってもらいたいとも思ってた。

手作りの募金箱
「BGTに行かせてください!」。ダンボールに切り抜いた5人の写真とユニオンジャックとナルトのシールが貼ってある。

世界のテレビに出るための資金を手作りのダンボール箱で集めようとしていた。

渡航費のうち、飛行機代だけで16万かかっている。

海野鷹幸

飛行機が16万円くらいだったのは、めっちゃ覚えてる。

そうしてロンドンに着いた。

着いてから箱に入れてくれた人へ礼を撮っている。

マンチェスター空港。手作りのダンボール箱に入った金で、5人はここまで来ている。
引いたカード
ロンドンにいた間、飯どうしてた? ホテルどうだった?
松澤竜介

マジ覚えてない。とりあえずお金ないから、ホテル抑えよう、って。

押さえたのは海野だった。

宿の値段はその場で調べ直された。

海野鷹幸

ロンドンの宿、さっき調べたら3泊4日で、5人で5万3,000円だった。

海野鷹幸

割にはいい宿だったな。俺だけずっとソファーで寝てた。めっちゃ覚えてる。

ロンドンにいたのは2月6日から15日までの10日間。宿は3泊4日で、5人で5万3,000円。ベッドは足りていない。

宿は3泊4日で、5人で5万3,000円。ベッドは足りていない。

その宿代も現地で作っている。ピカデリーサーカスの路上で、縄を回した。

引いたカード
ロンドンのピカデリーサーカスで路上やったやつ、あれ何?
松澤竜介

結構、最初は抵抗あった。バスキングという行為に。怒られないかな、とか。

バスキング=路上で演奏やパフォーマンスをして、通りがかりの人から投げ銭をもらうこと。ロンドンでは古くからある文化で、場所によっては公式のライセンス制になっている。
松澤竜介

外国で(路上を)やってみたいな、と思ったことがなかったから。

井端真秀

カズさんに相談したらスピーカーあげるって。無料でもらいました。ありがとうございます。

路上は稼ぐ場所であると同時に、危ない場所でもあった。

井端真秀

(酔った人が)縄を踏んでて。めっちゃ近くまで来て、このぐらいで。

井端真秀

何してくるかわからない。殺されててもおかしくないくらい。

井端真秀

誰かが明確な行動を起こすと、逆に冷静になる。

それでも路上で得たものがあった。

松澤竜介

番組に出たとき、心の底から喜ばれて。ほらちゃんと評価されてるじゃん、って。めっちゃ喜ばれて嬉しかった。

当時の映像はいまも残っている。

加藤周平

(当時の自分たちは)めちゃくちゃ楽しんでる。まだウキウキしてて、写真と動画が多いわ。今はないけど。

練習する場所は最後まで見つからなかった。

井端真秀

練習場所の体育館が見つからなくて、高熱の中、無限に歩いた。

加藤周平

海外で練習場所を確保するのがすごく難しくて。路上で知り合った人に「ここの体育館使えるよ」と連れて行ってもらったのに、結局使えなかったりすることも結構ありました。

イギリス滞在中、秀は熱を出している。この状態で、練習場所を探して歩いていた。

そしていま振り返るとこうなる。

海野鷹幸

生活するためのバスキング。カズさんとかまほろには本当に感謝してるけど、今考えるとあれ、バスキングじゃなくて、ただ練習してるだけなレベルだよね。

あれ、バスキングじゃなくて、ただ練習してるだけなレベルだよね。

生活費を稼ぐためにやっていたことが、結果としていちばん長く跳んだ時間になっていた。

公園で始めた駒が、ロンドンの路上まで来ていた。

夜のピカデリーサーカス。人だかりの中で縄を回している。生活費を稼ぐ場所であり、練習場所でもあった。

第四章 さけるチーズ

お金の話は笑い話では終わらなかった。

引いたカード
BGTの渡航費30〜40万、学生で実費だったよね。あれ、どうやって作った?
海野鷹幸

30万あれば足りたんだけど。俺もそのときはすでにクレジットカードを限度額まで使っていて、親にもお金を借りていたから、ほかに借りられる人がいなかった。お金ベースで考えたら、さすがにおかしくね、って思った記憶ある。

井端真秀

(親から)前に借りたぶんを半分しか返してなかったから、返してないのに貸すとかありえない、って。めっちゃ怒られて。12月中に全部返したら貸してあげる、って言われた。

井端真秀

それが12月の頭ぐらい。誘われた直後だから。一旦、バイトで全部返した。

坂田潤弥

(渡航費を)クレジットカード、15分割ぐらい。

そのお金は寝る時間を削って作っている。日中はゴットタレントと他のイベントの練習。その合間に卒業論文を書く。夜は夜勤のバイトに入り、そのまま眠らずに朝練習へ向かう。

カードは限度額まで使い切っていて、親からも借りている。その状態で勝てるか分からない大会に、自費で行くと決めている。

次のカードは痛みを聞くものだった。名指しされたのは、本人ではない。

引いたカード
BGTの期間中、この中でいちばんキツそうだったの、誰?
坂田潤弥

番きつそうだったのは……海野かな。アキレス腱が切れそうで、海野は出られないと思った。

渡英の前、海野は病院にいた。診察室で、とくに右足がかなり切れそうな状態だと言われている。そのあとレントゲンを見た。

海野鷹幸

(医者に)右足がかなり切れそうでしょ、って言われて。レントゲン撮ったら、さけるチーズみたいになってた。

レントゲン撮ったら、さけるチーズみたいになってた。
海野鷹幸

このままの運動量を続けたら、3か月以内に100%切れる、と言われて。控えられないです、と伝えたら、それなら3か月後には絶対に切れている、って。

腱は一度に切れるとはかぎらない。使い続けると少しずつ裂けて細くなり、最後に切れる。レントゲンに写っていたのは、その途中だった。

松澤竜介

なんか(海野)足、引きずってたよね。

海野鷹幸

引きずってた。俺、限界だったわ。

そしてその名前を挙げた僕自身もこのとき足の手術を終えたばかりだった。松葉杖が取れたのは、渡英の直前。リハビリの期間中に、無理やり出ている。

両足で跳べない状態で、片足だけで振りを合わせていた。

坂田潤弥

直前まで、片足で(振り付けを)調整して。

5人のうち2人が壊れた足のままロンドンへ渡っている。そしていちばんキツかったのは誰かと聞かれたとき、どちらも自分の名前を挙げなかった。

負荷のかかり方は、均等ではなかった。役割で分かれている。

難しいロープを回すのは年下のほうだ。そしていちばんリスクの高いスピードを跳ぶの年下が担う。1秒に8回まわる縄の中に、足を入れ続ける役目になる。

海野と僕は自分のパートが終わったら、縄の外ではしゃぐ側にまわる。

海野鷹幸

(俺らが)一番年下に負荷をかけて、年下がやってた。

ギプスのまま、片足で動いている。手術のあと、渡英までのあいだ。

第五章 揃わなかった

そのあと、カードは痛みではなく、違いを聞くものに変わった。

引いたカード
いまここにいる5人の中で、自分と一番価値観が違うのは誰? どこが?
坂田潤弥

根本的に考え方違うよね。全員違う。

海野鷹幸

話し合いは常にできてるから、根本の価値観は一緒だなと思ってる。

では、何が違うのか。

坂田潤弥

何年も同じチームとして一緒に活動しているくらいには同じ。それ以外は……人に興味があるかないか。

人に興味があるか、ないか。そこで割れている。

海野鷹幸

中学生の時とかは、トイレで隣の人に会ったら話しかけるし、エレベーターが同じだったらずっと話しかけてた。一緒にいる人に、ちょっと恥ずかしい、って言われてやめた。

違いは最初からうまく扱えていたわけではない。

予定が合わず、集合は23時になった。練習施設を借りるお金はない。そのまま公園で朝6時まで縄を回している。

2024年5月4日、午前4時すぎ。準決勝と決勝の月。空が明るくなりはじめている。
井端真秀

最初、5人でBGTに向けて練習したじゃん。あの時は話し合いが多かったし、対立も結構あった。決勝ぐらいからかな。

松澤竜介

(価値観が)統一されたっていうよりかは、役割ができてから。それをHARIBOWの軸に、みんなが肉付けていく。そういうショーの作り方になったからね。

HARIBOWの何が評価されているのかが見えて、それが軸になった。全員の考えを一つに揃えるのではなく、揃わないまま、その軸に各自が足していくやり方。
井端真秀

(5人とも)同じことやってワクワクして楽しい、と思ってるから。

価値観は揃わなかった。揃わないまま、役割で組み立てる方法を見つけた。それがいまのショーの作り方になっている。

ではその役割はどうやって決まったのか。得意なことで決まったわけではない。

あとで5人に、自分に向いていない仕事は何かと聞いた。得意なことを聞くと建前が返ってくる。向いていないことを聞くと、具体が出る。

加藤周平

商談だったり、お金の交渉をすることです。相手に金額を提示したり、条件を調整したり、こちらの希望を伝えながら交渉していくようなことは、正直あまり得意ではないと思います。

加藤周平

関わる人がかなり多くなってくる業務も少し苦手かもしれません。一つの業者に集中して対応するなら素早く動けるんですけど、複数の相手の間に立って橋渡しをするような仕事になると、集中力が分散してしまう。もともとマルチタスクがあまり得意ではなくて、どちらかというと、一つのことに集中して最後までやり切る方が得意です。

井端真秀

1つはSNSや資料作成など、優れたビジュアル、デザインが必要になる場面でのクリエイティブ。もう一つは、マメであることが必須条件となる業務内容。

向いていないと言われた仕事は消えてなくなるわけではない。誰かが引き受けている。

ではその5人が怖いと思っているものは何か。ここは、ばらけなかった。

海野鷹幸

自分の最大の長所は、他の人とは比較にならないほどモチベーションが高く、そこに明確な理由を必要としないことです。何かに夢中になるための理由がなくても、圧倒的な熱量で取り組み続けられます。

海野鷹幸

ただ、そのモチベーションがどこから生まれているのかを、自分自身でも完全には理解できていません。必要なときにロジカルに引き出せるものでもないため、何かをきっかけにその根源が失われ、急に何もやる気がなくなってしまうことが一番怖いです。

松澤竜介

強いて言うのであれば、複数の質問を通して、思っていたより自分がいわゆる一般的な仕事に就いて生活する事も魅力的と感じているということ。セカンドキャリアや将来への不安が、その背景にあると再認識した。

加藤周平

これから先、何を楽しみに生きていくんだろう、というところです。これまでずっと、自分が楽しいと思うことに全力で取り組んできました。今のところ、その楽しさはずっと更新され続けています。でも、いつかそれが更新されなくなる日が来たときに、自分はどうやって生きていくんだろう。

僕自身の弱さはたぶんここにある。お金の話も含めて、人に悩みを相談することがほとんどない。クレジットカードを使いすぎたときにそれを言うくらいだ。2年ほどショーを作り続けて枯渇した話はこの日、口にはした。ただ枯渇していた2年のあいだに、誰かに相談したことは一度もない。

向いていないことは並べられる。怖いものも言える。それでもいまは5人でやっている。

その決勝と同じ5月に海野と真秀が会社を立ち上げている。株式会社HARIBOW。

秋になって僕と竜介は勤め先を辞め、その会社に移った。就職した年のうちに、辞めている。

僕が辞めると決めたのは上司との会話の途中だった。

坂田潤弥

両立は無理でしょ、ダブルダッチかうちか、どっちか辞めてほしい、と言われて。即答で、会社を辞めると言ってしまった。

坂田潤弥

次の日にHARIBOWの案件が一つなくなった話を聞いて、とんでもない冷や汗をかいた記憶がある。

第六章 満席でも、赤字

ここで9月29日のカードが出た。

引いたカード
9/29の単独公演、儲からないのになんでやるの?
坂田潤弥

9月29日の単独公演、これ発表していいんですか。満席でもギリギリ赤字、っていう。

坂田潤弥

今すぐ演出に割く予算をカットすれば、黒字にすることは可能です。でも、やらないじゃないですか。

この日まで実際の数字を見ていなかった者もいる。竜介が知ったのは8月の終わり。仕事中だった。この座談会の数日前だ。

松澤竜介

最近ちゃんと知った。実態を。本当に赤字なんだな、っていう。

チケットが1枚売れるたびに、赤字は減る。ただし全部売り切っても足りない。それが「満席でもギリギリ赤字」の意味だ。

会場を借りるお金も、機材のお金も、チケット代でまかなえる。まかなえないのは、作った人間の給料だ。

海野鷹幸

ただの収支だけを見てて、人件費が0になってる。払ってる給料を考えると、圧倒的にマイナスだよね。

収支表の上ではこの公演は成り立っているように見える。そう見えるのは、作った人間の時間がそこに1円も計上されていないからだ。それを入れると、マイナスになる。

海野鷹幸

(すごいのは)それが赤字なことじゃなくて、そこに潤弥と周平の時間を割けるようになったこと。

学生のころ、練習に給料は出なかった。バイトで渡航費を作り、親に借り、カードを分割にして海外へ行った。いまは違う。作っている時間そのものに、給料が出ている。

海野鷹幸

大学生がイベントをやるのとは違うよね。固定給で、そこに時間としてお金が払われてる。お金にならないことをやること。それがすごいよね。優勝賞金とかがある大会の作品ではないので。

お金にならないことをやること。それがすごいよね。
加藤周平

儲からなくていいから、いい単独公演を作っていいよ、って言われたら、誰でも作りたいじゃん。正直。

井端真秀

儲からないことができるようになった、っていうのもある。会社として、それでもできる。

賞金の出ない公演に給料を払って人を張りつけておける。学生のときにはどうやってもできなかった。

ここで一度、部屋が静かになった。

では何のために赤字を出すのか。一言で聞いた。

引いたカード
原動力って、一言で言うと何だろう。
海野鷹幸

(HARIBOWを)かっこいい、と思ってもらいたい。っていうのが一番大きい。

海野鷹幸

(俺らを見てくれてる大学生とか、小中高生が、目指してくれる。憧れになるっていう。

海野鷹幸

これ(=この公演)を真似して他のイベントがかっこよくなったら、むしろ熱い。

パリコレクションに出てくる服はそのまま店に並ぶわけではない。売るための場ではなく、次の方向を示すための場だからだ。

海野鷹幸

パリコレみたいな。ファッションの、あれみたいな存在がいいなと思っています。

井端真秀

ぜやるか。夢、っていうことやな。一言で言うと。

僕の答えはそのどれとも違う。最高のショーを突き詰めたい。それだけだ。

一言で聞いたのに、一言では揃わなかった。

公演のチラシ
「公園から世界、その先へ。」

話は外向きから内向きに移った。

海外へ行くことが特別だったころはそれだけで人が集まった。いまは、行けて当たり前になっている。

井端真秀

みんな、なんかワクワクが減ってきてるじゃないですか。

井端真秀

結局、そのワクワクは定期的にアップデートしていかないといけないですよね。

そしてその赤字を誰が背負っているのか、という話になった。

坂田潤弥

最初のメンバーが何十万払って、みたいな。今はお金をもらっていくものみたいになってきた。

最初のメンバーは何十万も自分で払って海外へ行った。いまは会社が出す。同じ場所へ行くのでも、意味が変わっている。

そして赤字を出すのは会社だ。その原資は社員が働いて稼いだお金になる。今年受け取れるはずだったボーナスは返上され、そのまま今回の公演に充てられている。

海野鷹幸

会社を支えてるのは、圧倒的に自分たち社員の存在が大きい。社員が働いた分の給料やボーナスを返上して、今年受け取れる予定だったボーナスが、今回の公演に充てられてる。

これは特定の誰かの話ではない。5人がいまの構造をどう見ているかという話だ。

松澤竜介

外側ばっかりに意識がいってそうじゃん。そうじゃなくて、思ったより自分たちは内側も重視してるよ、っていうのはある。俺らがワクワクしたい。HARIBOWがワクワクしたい。

「外側」=観客や業界。「内側」=メンバー自身。
松澤竜介

ワクワクしなきゃな。外の人へ向けても、内側に矢印を向けても。両面で。

最後に、この公演が何のためのものなのかが語られた。

坂田潤弥

俺は個人的に、2年ぐらいショーを作ることによって枯渇して。それでも続いてるんですけど。

この2年、作品を作り続けてきた結果、アイデアが尽きかけている、という意味。

大会には出場枠があり、審査があり、賞金がある。誰かが用意した場に呼ばれて出ていく。単独公演にはそれがない。日程も、会場も、演目も、客席も、自分たちで決めて、自分たちで埋める。

最後は5人が同じ言葉を言って終わった。真秀がさっき言ったのと、同じ言葉だ。

複数・全員

アップデートしましょう。

どこを見てほしいか

メンバーに同じことを聞いた。9月29日、自分のどこを見てほしいか。客席のどこに座るとそれがよく見えるか。

井端真秀

お客さんに目線を合わせる。前の方に座っていると、目を合わせられます。僕は目が悪いので。

松澤竜介

ステップをどれだけ守らないでできるか。近くの席だと、よく見えると思います。

ステップ=縄の中で足を運ぶ基本の型。それをどこまで崩せるか、という話。
加藤周平

基本的にはパフォーマンスを見てほしいです。特に、全員が横一列になるところは、自分も前に向かってアピールできる時間があります。下手側のステージに近い席だと、自分のことは結構見やすいと思います。

下手(しもて)=客席から見て左側。
海野鷹幸

表情が豊かなところには自信があるから、そこを見てほしい。俺だけをずっと見ていても、たぶん楽しめるくらい表情には自信があります。表情が見える、なるべく前の方の席で見てもらえたら嬉しい。

海野鷹幸

もちろんアクロバットにも自信があるので、遠くの席からでも派手な技は楽しんでもらえると思います。

海野鷹幸

皆さんのおかげで、いまのHARIBOWがある。その恩返しがしたい。

坂田潤弥

自分というよりは、公演全体を見てほしい。それが僕たちの今なんだと思ってほしい。いいことも悪いことも含めて。

4人が、前の方の席、と答えた。僕だけ、席を指定しなかった。

もうひとつ、チームとしての答えがある。

ダブルダッチの現在地とこれからの未来を想像しながら見てほしい。この競技はまだ進化を止めないのだということを、9月29日に証明したいと思っている。

HARIBOWが見てほしいのは、これまでの全部が通過点だった、ということだ。

好きなことをやっていたら、思ったより遠くまで連れて行かれた。それでも、やっていることは変わらない。同じ仲間と、同じ遊びだ。

9月29日は、まだその途中にある。

——あなたが手放した「何か」と「誰か」を、思い出しに来てほしい。

エピローグ まだ、埋まっていない

誘う話にはつづきがある。断られてもいる。

坂田潤弥

行けたら行くわ、絶対来ない親友だから。すごく疑ってて、本当に来ない。

坂田潤弥

当日は)呼ぶだけ呼んで、喋れない。

番組史上初のブザーを受けた5人が目黒の客席を埋めるために、友達にひとりずつ連絡を入れている。

2024年のBGTで僕たちは何が起きているのか分からないまま、番組史上初の観客ゴールデンブザーを受けた。価値はあとから知った。翌2025年、僕たちはIJRU世界選手権——ジャンプロープの世界一を決める大会——で優勝している。こちらは、狙って獲りにいったものだ。

今度は、全部分かっている。満席でも赤字になることも、当日の客席が埋まるか分からないことも、誰が何を背負うかも。そのうえで、やると決めている。

BGTのときと、9月29日。どっちが無謀か。真秀と竜介と周平はBGTと答えた。僕の答えは、同じくらい、だった。

加藤周平

BGTの方が明らかに無謀だったと思います。スケジュールがかなりタイトだったのもありますし、そもそもゴールデンブザーをもう一度取るということ自体が無謀でした。

いまの5人であの時と同じことをやれると思うか。4人とも、やれる、と答えている。

加藤周平

あの時も無謀だったけど、今もよく分からないスケジュールの中で動いていることが多いので、この5人なら同じようなことはできると思います。

坂田潤弥

いつか、BGTの話みたいなノリで宇宙に行く話がきた時に、まほろを全く同じシチュエーションで唐突に誘おうと思っている。

あのとき怖かったことは、いまも同じだ。会社になって、関わってくれる人はあのときの4人ではきかなくなった。

正直に言うと、もうひとつある。縄に引っかからない、というだけで世界中に行かせてもらった。裏を返せば、引っかかるだけで必要とされなくなる。そういう場所に立っている。

いちばん怖いものは何かと聞いたとき、海野だけが自分たちで解決できないものを挙げた。

海野鷹幸

誰かがインフルエンザになっても、骨折しても、みんなで力を合わせれば何とか公演はできると思っています。しかし、台風や地震などの不可抗力による中止だけは、どうすることもできません。

海野鷹幸

だから、本当にお願いだから台風だけはやめてほしい。みんなもマジで頼む。絶対に晴れてくれ。

盤の端まで行った駒が、次に何に成るのか。それはまだ決まっていない。

2026年9月29日(火)、めぐろパーシモンホール 大ホール。開場18:00、開演19:30。HARIBOW初の単独公演「Go BEYOND」。出演32名、演目は9つ。この記事に出てきた5人も、これまでを共に歩んできた仲間たちも、全員そこに立つ。

チケットは こちらから。一般S席 前売 4,500円、一般A席 前売 3,500円、大学生 前売 2,500円。

客席は、まだ埋まっていない。

なお、この春からHARIBOWに加わった6人目がいる。株式会社HARIBOWの初めての新入社員だ。そして今回の公演のキーパーソンでもある。その話は別に書いた100回、聞いた)。

この記事に出てくる5人は、2026年9月29日、めぐろパーシモンホールの大ホールに立ちます。

HARIBOW 初の単独公演「Go BEYOND」
2026年9月29日(火) めぐろパーシモンホール 大ホール

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